2005年
5月版(Vol.8)
OHCエンジン
を持つMGたち
~MMM・M
Gの魅力~
皆さんは
MMM・MGのことをご存じでし
ょうか。メジャーで人気のあるミジェット、AやB、Tシリーズ、あるいは
サルーンとは違い、日本ではかなりマイナーな部類に入るMMM。「トリプルエム」と読むところを間違えて
「スリーエム」と読んでしまう人が多いぐらいです。このMMMに関する読み物は、日本では断片的なものを
除いてほぼ皆無の状況下、あえて本邦初?の実用的な解説をやろうと思いま
す。戦前モデルなどに興味ないなどと言わずに是非一読してみてください。読
者のみなさんにMMMの魅力を少しでも知っていただければ幸いで
す。
1
MMM(トリプルエ
ム)とは
MMM・MGといっても、何のこ
っちゃとおっしゃる人も多いかと思いますので、まず時代背景を説明しましょ
う。
MGは1921年にセシル・キンバーがモーリス・ガレージ
に支配人として入社後、1923年にモーリス車(オックスフォードとカウレー)のスペシ
ャルを造るところからスタートしました。徐々に親会社モーリスの改造車にと
どまらずM.G.の独自色が打ち出され始め、ついに
8 / 33 Mタイプ・ミジェットとして初のMMM車がお目見えしたの
は1928年のことです。同じ年に親会社が発売したモ
ーリス・マイナーを抜本的に改造したクルマでした。軽い車体とチューニング
・ポテンシャルの高い847cc4気筒OHCエンジンの組み合わ
せは、レースや当時盛んだったトライアルなどで頭角を現わしました。その後
は矢継ぎ早に4気筒・6気筒OHCエンジン搭載の高性能スポーツカー・レーシングカーを発
売し、英国のみならずヨーロッパのレーシングシーンで大活躍、好評を博しま
した。
しかし
1935年の半ば、当時まだMG社のオーナーだった
ウィリアム・リチャード・モーリス(後のナッフィールド卿)は採算を重視
し、レース活動に資金を使いすぎて赤字となっていた独立会社M.G. Car Co.を再びモーリス社の傘下に組み入れ、
セシル・キンバーに金の掛かる一切のレース活動を中止するように命じます。
その結果、独自のOHCエンジンを持っていたMG(モーリスや傘下の
ウーズレーは既にOHCエンジンの使用を辞めていた)は、
1936年に既成の安価なモーリスのコンポーネンツ
(OHVエンジン等)を使用
したTシリーズという「普通の」車に成り下がり、
MGの黄金時代は終わり
を告げます。なおSVWシリーズも大きくて豪華でしたが、モーリス
起源のOHVエンジンを有する比較的安価なクルマでした。
MMM・MGとは、この
1929年から1936年までの僅か
6年余りの短期間に生
産された小排気量OHCエンジンを持つMGを指す代名詞で、モ
デル名で言うMidget、Magna、Magnetteの頭文字を取ったものです。その生産台数は10000台あまりです。
英国やアメリカ、
オーストラリアなどではこのMMMの熱狂的なファンが数多く存在し、
MGカークラブが中心に
なってコンクール・デレガンスやレース、トライアルなど活発な活動が続けら
れていますが、残念ながら日本ではMMMに対する認識が低く(K3マグネットなど少数
の特定のモデルのみ知名度が高い)、大多数の人は「戦前」と言うだけで敬遠
してしまうようです。
かく言う筆者も、
実際にMMM・MGに接するようになる
までは、戦前のMGはおろかTシリーズですら「前
時代の乗物」という先入観がありました。ときおり雑誌などで紹介されるだけ
の、注釈もほとんど無い白黒写真のMMMはなおさらで、非常に漠然とした憧れの対象
とは成り得ても、実際に自分が所有し、深くのめり込んでしまうとはとても考
えられませんでした。
ところが実際の
MMM・MG各車は、見かけによ
らず動力性能は意外と高く、またOHCエンジンのチューニング・ポテンシャルも高
いため、普通にメンテされ、ノン・シンクロのギアボックス、あまり滑らせて
はいけないクラッチ、それに夏場の水温にさえ気をつけていれば、現在の道路
事情でも特に痛痒は感じません。実のところ、MMMは小さくて軽いため意外に運転しやすく、
TAやTCよりも楽なほどです(TCなども見かけよりは
運転しやすいのですが、ボディが大きく重くなったことに伴い、ステアリング
が滅法ヘビーなことなど欠点も合わせ持っています)。特に非常に小さくて軽
量のJやMは、筆者にとっては
軽快で本当に乗りやすく、週末の足にしているほどです。またほとんど全ての
消耗品が今も生産されているため、構造が非常に簡単なMMMの維持は容易です。
2 MMMの
魅力
MMMの魅力は、車種が極めて豊富なこと、スタイル、希少性、
高性能OHCエンジン、いかにもスポーツしているといった操縦感、レ
ーシングヒストリー、パーツの入手が容易なこと、あるいは本国MGカークラブ・MMMレジスターのバック
アップ体制、などなどたくさんあります。人によって何が最大の魅力かは異な
るでしょうが、ここでは順に説明していきましょう。
ま
ず車種が豊富なこと。
Mタイプ・ミジェット
に始まるMMMの系譜は別の機会に整理して詳述しようと思
いますが、4気筒のミジェットは
M・C・D・J・P・Q・R、6気筒マグナは
F・L、6気筒マグネットは
K・Nと、シリーズ名だけを数えても11種類が存在します。しかも各シリーズには様々なボディバリエーショ
ン、チューニングバリエーションが存在し、2座ロードスターのほか、4座ツアラー、2座クーぺ、4座サルーン、さらに
は車種によってはDHC(ドロップ・へッド・クーぺ)や単座または
2座のレーシング、果
てはバンまでありました。またMG社の標準ボディに加えて、ジャービス、カー
ルトン、スタイルズ、アリンハム、クレスタ、コルシカなどのコーチビルダー
がスペシャルボディを架装し、一部はMG社のカタログモデルとして正式に販売されて
います。オーナーが個人的に架装したもの(例えばジェンセン・ボディの
Kタイプ)やスイスのコーチビルド・ボディ、
オーストラリア独自のボディ(豪州には関税の関係でシャーシ状態で供給され
た車が多く、ボディは現地の販売会社が独自に架装した)まで含めるとそれこ
そ数え切れないほどの車種構成となります。
スタイル
については、どの車
種も古典的な英国スポーツの雰囲気に包まれています。「スポーツカーは仮に
止まっていても速く走っているように見えなければならない」と言ったセシル
・キンバーの言葉通り、ロードスターはもちろん、4座ツアラーやサルーンもスポーツカー然とし
ているのはさすがMGといえます。
ボートテールに
V型のフロントスクリ
ーンを持つMタイプは本当に可愛らしく、フレアしたウイ
ングと、リアに背負ったスラブタンク、大径のワイヤーホイールが美しい
J・P・Lなどのロードスター
は、Tシリーズよりも全体的に小さく引き締まって
好ましく見えます。4座ツアラー各車は耐
候性を重視したその後のモデルには見られない均衡のとれたスタイルを持って
いますし、クローズド・ボディ各車も、Fタイプ・サロネットやLタイプ・コンチネン
タル・クーぺの瑞正な美しさ、P・N(TAにも)に載せられた
エアライン・クーぺの優雅さは特筆すべきものがありますし、CタイプやK3・Q・Rなどのレーシングモデルについては、あえて
言うまでもなく各々が戦前レーシングカーの究極のプロポーションであること
は万人が認めるところです。
次に希少性
。Tシリーズ以降の
MG各車(一部の車種を除く)に比べて生産台数
・現存台数ともはるかに少ないため、いきおい希少性は相当高いものとなりま
す。特に二桁あるいは一桁しか生産されなかった一部の車種は、現在では極め
て入手しにくいのは事実です。
しかしポピュラー
なJ2やPAなどの
2シーター・ロードス
ターは生産台数も現存台数も結構多く、英国では流通量も比較的豊富で、かつ
Tシリーズと同レベルかやや上の価格帯であ
り、入手もそれほど困難ではありません。この点につきましては後述します。
先にも述べたよう
にMMMは全てOHCエンジンを搭載しています。Mタイプ
4気筒はモーリス、
Fタイプ6気筒はモーリス傘下
にあったウーズレーのユニットを一部改良した程度のものでしたが、それ以降
はモーリスやウーズレー・ユニットとはかなり異なるMG独自のものとなっていきます。MMMのOHCエンジンに共通なのは、何といってもカムの
駆動方法が特異なことです。通常のチェーンやベルト、あるいはギヤドライブ
とは異なり、クランクとカムの先端にそれぞれベベルギアが付いており、それ
らが垂直のシャフトで連結されて駆動されるシャフトドライブだという点で
す。さらにこの駆動シャフトは、そのままダイナモのアーマチュア・シャフト
も兼用しており、機械的な故障が殆ど無いという利点があります。昔はカムの
べベルギアハウジングからオイル漏れがひどく、ダイナモやラジエターがオイ
ル漬けになることも多かったようですが、現在は高性能オイルシールが使われ
るようになり、オイル漏れのトラブルは克服されています。このエンジンのパ
ワー・トルクはノーマルではたかが知れたものですが、チューニング・ポテン
シャルは極めて高く、1930年代当時でもリッター当たり自然吸気で
70馬力、スーパーチャ
ージャー付きでは160馬力が可能でした。現在では改良されたクラ
ンクやコンロッドが制作・市販され、耐久性をあまり犠牲にせず相当のチュー
ニングができるようになっています。このエンジンを分解組立する度に、機能
的で無駄の無い設計に感心します。材質は別にして、同年代の英国のベストセ
ラー車に搭載されているサイドバルブエンジンとは全く比較になりません。
操縦性は、悪くいえば野
蛮、よく言えば男性的といった表現が適当なほどタフでハードです。前・後輪
ともリジットのサスペンションは堅く、ステアリングは曖昧で、シンクロの無
いギアボックスは上げるにも下ろすにもダブル・クラッチが絶対不可欠です。
コーナーリング・ポテンシャルは現代の車とは比較になりませんが、重いステ
アリングを制御し、アンダーステアに抗しながらコーナーをクリアするその操
縦感覚は正にスポーツカーそのものです。低い速度で容易に限界に到達するた
めに、安全かつ面白いコーナーリングがいつでも楽しめるのはMMMの大きな魅力です。ノーマルエンジンでは日
本の山道ではトルク・パワー不足にイライラするのですが、平坦なワインディ
ングでは滅法おもしろく、さらに軽くチューニングしてやると楽しさは倍増し
ます。ただし高速道路のクルージングはやや忍耐を必要とします。なお、
MやCタイプで使われた
Adamant式ステアリングが、JやF、K、LでMallers Wellers式になり、さらにPAの後期から
N(後のTA~TCも)には
Bishop Cam式に徐々に「改悪」(私見ですが)されてい
くのは少し解せません。Jまでは車重の軽さも
ありますが、PやTシリーズとは比較に
ならないほどステアリングは軽く取り回しが容易です。
レーシングヒ
ストリーは言うまでもなく素
晴らしいものがあります。Mタイプから最後のRタイプに至るまで、
ここにその戦歴をいちいち書き記すことはできませんが、特にCタイプやK3等のワークス・レー
サーはサーキットで英国自動車史に残る数々の記録を残していますし、また
「クリーム・クラッカース」や「スリー・マスケターズ」などがトライアルシ
ーンで大活躍していることは有名です。モナコ・ガレージやベレビュー・ガレ
ージなどのプライベーターもワークスに負けないほどの活躍をしました。これ
らは機会を見つけていずれ紹介したいと思います。
パーツに関しては、消耗品
は殆ど全て再生産されており入手も容易です。消耗品以外でも電装品やアクセ
サリー、さらにはボディまで再生産されており、一部の特殊部品や再生産され
ていないアクセサリーを除いて殆ど全てが入手可能なことには驚かされます。
最近はエンジンすら受注生産されるほど。また再生産されていない部品も、中
古部品やリビルト品が入手できますので、とにかく部品で頭を悩ませる必要が
ないのは大きな魅力です。英国では現在2社が大手のパーツ供給元となっていますが、
中小の部品業者や修理工場規模でも部品を限定生産しているところがありま
す。中には改良・強化された鋳造シリンダーブロックや、アルミ製でハイカム
・ビッグバルブを組み込んだJ2のシリンダーヘッドを生産しているチューニ
ング業者もあります。
英本国のMGカー
クラブは車種別にレジスターが分かれており、MMMは当然MMMレジスター
が面倒を見てくれて
います。メンテナンスやチューニングに関するアドバイスはもちろん、オリジ
ナルの状態や現存する各車種に関する情報、レーシング・ヒストリーの研究結
果など、希望すれば色々と教えてくれます。また英本国ではイベント運営など
幅広い活動もなされており、この点は英国のMGファンがうらやましい限りです。
3 日本に棲
息するMMM
さて、以上で
MMMの魅力が一通りお解りいただけたかと思います。では日本
でMMMは一体どれぐらい棲息しているのでしょうか。以前より筆者は本国
MGCCのMMMレジスターの依頼も
あって、日本に存在するMMMの実態調査をしていますが、例のバブル期に
単なる投機またはコレクションなどの対象に複数のMMMが輸入されたこともあり、果たして日本に何
台のMMMが存在しているのかは定かではありません。おそらく全部
で60台強だと思われますが、そのうち投資目的などではなく、MMMの何たるかを理解している本当の愛好家の元
にあるのは40数台、そのうち活動
状態にあるのは最近は増加傾向にあって30台強だと思われます。内訳は筑波などでレー
スに使われているのが7~8台、日本のナンバーが取得されているものが
25台前後といったとこ
ろでしょうか。従ってMMMは、日本ではTシリーズなどに比較
して極端に数が少なく、ナンバー付きともなると路上や中古車屋の店頭で見か
けることは皆無に近いのが実態てす。博物館や筑波のクラシックカー・レース
以外ではまず目にする機会がないでしょう。おそらく戦前のMGということで
「遅い、高い、壊れやすい、部品がない、修理困難」といった先入感があるた
めはないかと思われます。
日本に棲息する、
または日本人が所有するMMMは現在筆者が確認している限りで
58台ですが、継続調査中です。雑誌の紹介記事や中古車屋の売買情報に加
え、実際のオーナーによる情報や、ジャーナリストの方の情報をもとにしたも
のですので、いずれ雑誌で協力を呼びかけたりして詳しく調べてみるつもりで
す。本国MGCCのMMMレジスターも
MMM各車の生存状況を世界的規模で調査しており、前述のよう
にその日本窓口は筆者になっていますので、是非とも各方面の協力を得てしっ
かりした調査を実行すべきだと思っています(別資料参照)。
4 MMMを
手に入れる
さて、
MMMは決して遅いとか部品に困るといったことがないことは既
に述べました。同年代のクルマには色々と欠点を持つものが多いのですが、
MGに関してはブレーキにしろエンジンにしろギ
ヤボックスにしろ全く日常使用に問題なく、現代の路上でも普通に乗れるのは
魅力的です。また車種の多さが選択肢を増し、好みや使い方にあった車種を選
ぶのも楽しいことです。そして深く知れば知るほど、特にレーシング・モデル
やスペシャル・ボディのMMMは、MGファンとして所有欲
をかきたてられます。それでは日本で殆ど流通していないMMMを入手するにはどうすれば良いのでしょう
か。
まず戦前
MGを取り扱う専門店か
ら購入する方法があります。英国のクラシックカー雑誌を読んでいますと、そ
のようなショップが幾つか広告を出しています。売り物はレストアが必要なも
のから程度極上のピカピカまで様々ですが、毎月平均して3~4台が売りに出ている
ようです。多くは生産台数・現存台数とも豊富なJ2やPAですが、好ましく改
造されたレーシングMMMのレプリカなど、意外な売り物がでてくるこ
ともあります。FやL、Nといった
6気筒モデルは、以前
は散見されましたが、最近は殆ど見なくなったのは残念ですが。生産台数の少
ないDやK、或いは
C・Q・R・K3などの本物のレーシングモデルは当然滅多に売りに出ません。
J2やPAの売値はそこそこの程度の車で16,000ポンドぐらいから見られます(6気筒モデルは4気筒モデルの
2~2.5倍くらいが相場。ちなみにTCはJ2やPAとほぼ同じ、
16,000ポンドくらいから)が、程度が良い車は最近は
22000から25000ポンドに達するようです。なにぶん70年ほど前の車ですか
ら写真も見ずに購入してしまうのは非常に危険なのですが、広告主に
FAXで写真と詳細を送ってくれと頼むと、多くが
「もう売れてしまった」と言ってきます。何も日本人にクルマを売るのが嫌な
のではなくて、本当に英国ではMMMの流通は速いようです。逆に問い合わせたと
きにまだ在庫しているような車は、どこかに欠陥があるか価格が高すぎるかの
どちらかだと思って良いでしょう。従って雑誌の広告を頼りに買うのは、日本
からでは時間差(雑誌に広告が出るまでと雑誌を入手するまで)を克服できな
い以上、ちょっと難しいでしょう。この点でリアルタイムで情報収集ができる
インターネットならうまくいくかもしれませんが、素性の知れた車ならともか
く、最悪の場合は詐欺に合う可能性もあるのですから、あまりお勧めは出来ま
せん。なお、一時は売れ行きが停滞気味だった英国も、最近は投資の対象を株
や債権から美術品にシt'モキる動きがあるらしく、価格が安定して人気の高い
MMMはタマ不足になりつつあります。
またオークション
に出てくる車を買う方法もありますが、実際オークション会場にまで出向くこ
とができる人はともかく、電話でビッドに参加するにはかなりの語学力と経験
・駆け引きが必要で、現実的ではありません。またオークション出典車は基本
的に試乗できないために半分バクチ的なところがあります(過去にニセ物やエ
ンジンの中身がカラッポの車が出てきたことは何度もあります)。しかも実際
に落札したとしても、英国内の陸送や船会社の手配を誰に額むか、などリスク
が大きすぎます。
確実な方法は、英
国のMG通かMMM専門店に事前に声を
掛けておくことです。本当にMMMを所有しようという方は、自分の好みのモデ
ルをお持ちでしょうから、まずMGの写真集や洋書を熟読して知識を得、そのモ
デルの長所も短所も理解した上で信頼できる相手に出物情報を素早く送っても
らうという方法があります。筆者の場合、オークションの代理落札を依頼でき
るほど信頼できるMMMエキスパートに試乗してもらい、程度やオリ
ジナリティをし確認し、安心できる船会社から船積みしてもらえるルートがあ
り、大変重宝しています。
また直接オーナー
に交渉する方法もあります。写真集などで「これは!」と思うMMMに狙いを付け、現オーナーを調べて(英国
MGCCのMMMレジスター発行資料
から調べることができます)直接交渉するのです。通常は信頼できる代理人を
立てますが、相手が売る気になっていれば案外簡単にいくものです。筆者も2
台ほど狙いをつけてオーナーに問い合わせたことがありますが、強気の価格で
したので長期戦と考え、オーナーとのんびりした(10年はかかるでしょう)交渉を楽しんでいま
す。
筆者は本国の
MMMレジスターの日本のとりまとめをやっている関係上、ショ
ップに出ないような密かな個人売買情報がチラホラ入ってきます。
MGに限らず希少なモデルは大っぴらに宣伝され
ることなく個人レベルで静かに所有者が変わるのが通例ですが、そのような情
報も入ってきますので、稀に驚くような”Change Hands”を目の当たりにすることがあります。
5 MMM入
手時の注意点
さて、先にも述
べたようにMMMはパーツの心配はありませんので、どのよう
な方法で手に入れても構わないのですが、基幹部品には注意する必要がありま
す。日本でもMMMのエンジンのオーバーホールやチューニング
をしてくれる工場は探せばあるでしょうが、戦前のエンジンというだけで敬遠
されがちです(ホワイトメタル盛りを引き受けてくれる内燃機屋が随分と少な
くなりました)。仮に引き受けてくれたとしても高価だったりするでしょう
し、適正トルクやクリアランス値などの基礎データはもちろんのこと、特製カ
ムやクランク、ピストン、コンロッドなどに関する情報やノウハウを持ってい
るところはあまり無いでしょう。特にKタイプ・マグネットなどに用いられた半自動
のプリセレクター・ギヤボックスの修理は日本では難物です。そこで日本に送
る前に信頼できるエンジニアにエンジンを無鉛へッドに加工してもらい、つい
でに軽チューンを施し、メタルやギア、クラッチ等を新しくしてもらい、ギヤ
ボックスもしっかりとオーバーホールしてもらえば安心です (騙されたりいい加減な整備をされたりしない
よう、必ず信頼できるエンジニアに頼むことです)。もちろん自分で修理する人にとっては、構
造が簡単なMMMのOHCエンジンは扱いやす
いので、文献を読んで知識を蓄積し、試行錯誤をしながら組んでいけば良いの
ですが。なお筆者の場合は、上述のようなノウハウや情報は長年の間に蓄積し
ていますし、メタルのクリアランスやギヤのメッシングの具合に自分の好みが
あるのと、オイル漏れの秘策や見えない部分の改良をするため、エンジンは自
分で納得しながらOHするのを好みます。後述しますが、英国でか
なり有名な人に組んでもらったエンジンに満足できなかったためです。もちろ
ん現在も英国やドイツ、アメリカのエキスパートとのやり取りで日々勉強です
が、逆に筆者が米英のアマチュアレストアラーにメールで指導したり情報を流
したりすることが増えてきています。
ボディや内装パー
ツは、少々程度が悪かったりオリジナルでなかったりしても、部品の入手は簡
単ですので自分でコツコツ直すことができます。但しMMMのボディは昔も今も全て手作り(キットもあ
る)で、幌・サイドカーテン・ドアの内張りは車ごとに少しづつ寸法が違いま
すので、既製品を購入してもピッタリ合わない場合があります。この点は
Tシリーズ以降のようにはいきません。従って
購入の際に最低でも幌とサイドカーテンだけは英国で新調(オーダーメイド)
しておくと良いてしょう。日本でも現物あわせで作ってくれる内装業者はあり
ますが、高価かつ満足いく生地が揃っていないことが多いようです。
ところで、中古車
を購入する方法は一般的に次の3通りあります。@フルレストアを前提にして
程度の悪いのを購入する、Aそこそこの程度の車を購入して直しながら乗る、
Bレストア済みの極上車を購入する。
筆者が今まで日本
で携わったMMMは20台ほどしかありませ
んが、通常のヒストリックカーと同じくBの方法を採るのが無難です。理由
は、それが最終的には安くつくからです。Aは日本上陸後に修理に案外お金が
掛かる場合が多い傾向にあり、また@は自分でやる場合は良いのですが、レス
トアラーに頼むと相当高くついてしまいます。
では、いくつかの
MMMを例に、経験を元にそれぞれのパターンを検証してみまし
ょう。。
<パターン@>
(例1:‘32年式J2)は、
1970年代の始めにに岐阜の愛好家が個人輸入したもので、レー
サーに仕立てるべく少々改造を受けましたが、結局バラバラの状態で多くのパ
ーツ(エンジンなども)を失ったまま納屋に保管されていました。
1997年に筆者が譲り受け、エンジンやその他多く
の手持ちパーツを利用してコツコツ楽しみながらレーサーを作成。
2004年に完成して車検を取得し、休日にワインデ
ィングを楽しんだり、CCCJのヴィンテージカー・レースに出場したりしています。自
作のアルミのボートテールボディは軽量に仕上がり(乾燥重量480kg)、スーパージャー付
きのレーシングエンジンは予想以上のパワーとトルクを発揮し、デビュー戦の
2005年2月の筑波ではブガッ
ティ35Bについで2位になりました(ラ
ップタイムは1秒強遅れの1分27秒)。しかし、こう
いうパターンは直ぐ乗りたい場合には向きませんし、場所の問題もあります。
またレストア自体は大した工具も技術も要りませんが、MMM特有の知識や複数の部品入手ルートを確保し
ておかないとうまく進捗しません。なお、外注作業を極力なくしていますの
で、費用は余りかかっていません。
(例2:’35年式PB)は希少なアルミボ
ディのエアラインクーペですが、非常に程度の悪いものを1994年にスコットランドの農家の納屋で発見して
購入、英国で6年半かけてフルレス
トアしました。14台しか生産されていないPBエアラインの特殊なクーペボディを新製しましたので、通常の
2シーターなどより手間もお金も掛かりまし
た。慎重にレストアラーを選び、パーツの手配などは自分の手で行いましが、
結果的にどれほどの金額になったかは計算していません(チョッと怖くてする
気になりません)。レストア済みの同型車が市場に出てくることは殆どないの
で、このような方法を採らざるを得なかったのですが、スペックや塗色を好み
のものにできること、またレストアのコストが長期にわたって少しずつ発生す
ることなど、メリットはあります。
(例3:’33年式L1)は97台しか生産されてい
ない2ドア・サルーン(Salonette)ボディを持つ
L1マグナです。英国の
MMMコレクターの友人が1960年代に愛用していた
有名な車輌ですが、1970年代の初めにアメリカに行ってからは海の近
くに野ざらしで放置され、程度が悪くなってhしまいました。メリーランド州の
MGコレクターである前オーナーが見かねて1979年に購入、ボディの新調やシャーシなどレス
トアを6割がた完成させまし
たが断念、筆者が2004年の春に購入しました。アメリカでレストア
中のクルマということで、使用されているボルトナットは現UN規格のものが殆どですので、結局は総バラシ
になります。場合によっては新品のサルーンボディを使用せず、レーシングカ
ーにする可能性もあります。
<パターンA>
(例4:’29年式Mタイプ)は、英国で
普通に乗られていたものが比較的安価に売りに出、現オーナーが購入しまし
た。日本に積み出す直前にメタルを傷めてしまい、英国の信頼できるエキスパ
ートにエンジンのOHをしてもらってから輸入しました。購入価格
は比較的リーズナブルだったのですが、エンジンのOHを強いられたため、やや割高になってしまいま
した。但しOHを信頼できる人にや
ってもらったこと、その際に強化クランクを奢ったことで、かえって日本上陸
後に壊れるより良かったのかもしれません。なお、このエンジンは日本に着て
からヘッドガスケットが吹き抜けるトラブルがありましたが、オーナー自ら修
理、その際にポート研磨とソリッドカッパーのガスケットへの変更を行ってい
ます。
(例5:
‘33年式J2)は1989年に英国でオークションに出てきた車を落札、輸入しまし
た。それは1980年頃に英国でレストアされたもの(いわゆるOlder
Restoration)でオリジナリティは極めて高かったのですが、レストアが中途半端
で、かつ保管が悪かったらしく各部がヤレたり壊れたりしており、日本で車検
取得後に気に入らない部分を手直ししました。結果的にはあれもこれもと欲張
ったため、部品代が結構高くつきました。またエンジンに難があって(リヤエ
ンドからクラッチハウジングへのオイル漏れによるクラッチの滑リ、最終的に
はオイル・リターンパイプ取付けボルト脱落でオイルを失ってメタルを損
傷)、英国でスペアエンジンを探し出し、特殊鋼のクランクを組み込んでオー
バーホールをしてもらった後に日本に持ち込んでエンジンの換装を行いまし
た。しかし換装後のエンジンもリヤのメインベアリングが焼き付く持病があり
(メタルの盛り方が不良だった)、また焼き付きによるクランクの曲がりの影響でフロントエンドから少量
のオイルが漏れることに満足できず、何度も組み直しました。現在はクランク
シャフトの曲がり修正後、英国より取り寄せた特殊なホワイトメタルを使い、
完全バランス取りした上にシール類に留意して組んだため、オイル漏れも少な
いスムーズなエンジンに仕上がっています。いたって快調、110km/h巡航も苦にならず、週末の足として大活躍で
す。1989年に輸入してから今まで30,000kmほど走行しました
が、ここ数年はチューニングの結果パワーアップしてより乗りやすくなったた
めか、年に3~5000kmのペースで頻繁に使
用しています。結果的にこのJ2にはかなり手間と資金(と愛情)を注いでい
ます。ただ、MMMのメカニズムのイロハを独学ながら習得できました。
(例6:’33年式J2)は、オーストラリ
アでアマチュアレストアラーが仕上げたクルマを1999年に輸入、すぐ現オーナーの手に渡りまし
た。価格は大変安く、程度も悪くはありませんでしたが、完璧を求めて現オー
ナーが各部に手を入れておられます。エンジンも分解してキッチリ組直しをし
ています。ベース車は求めやすい価格でしたが、上陸後に手間と費用が掛って
いるクルマです。
(例7:‘32年式K3Replica)は、
1990年頃に関東の業者が輸入し、名古屋の愛好家が所有してい
ましたが、2002年に現オーナーが購入しました。1985年頃に英国で
K1のシャーシを基に作
られた、1934年式ボートテールK3の忠実なレプリカ
で、英国ではレースにも使われていました。納車直後にガスケットが吹き抜け
、筆者がエンジンOHを担当しました。エンジンはK3とは名ばかりでK1そのままのパーツが使われており、各部の組み
方も大変いい加減で呆れてしまった記憶があります。英国から輸出された時に
誰かがエンジンをスワップしたのではないかと思われたぐらいです。結局はレ
ース用のクランク・カム・コンロッド・ピストン・バルブ周りのパーツを組み
込み、慎重に組上げたため、現在はレースで優勝するほど好調なクルマになり
ました。車検も取得しています。エンジンのオーバーホール、タイヤの新調、
ラジエターのコア交換、などなど車両価格以外の出費は結構な額になりまし
た。
(例8:’34年式PA)は、英国で適度に
ヤレた良い雰囲気の車輌が売りに出、現オーナーが2004年夏に現地で実車に試乗して購入を決定した
ものです。極上車ではありませんが極めてオリジナリティが高く、キャブレタ
ーの調整など少し手を入れただけで快調に走っています。大変運の良い買い物
だったと言えるでしょう。
<パターンB>
(例9:’31年式Mタイプ)は
2001年秋に入手しました。筆者のPBエアラインをレスト
アしてくれた英国人エンスージャストが手掛けたクルマで、レストア後
6年ほど経っていましたが非常に良い状態を保
っていました。当初からエンジンは強化クランク組み込み済みで、さらに
J2用の4速ギヤボックスに換
装されていたこと、その改良とレストアを行ったのが信頼できる人間だったこ
とが主な購入の理由です。幌・サイドカーテン・トノカバーのみ英国で船積前
に新調し、2002年1月中旬に日本に到着
しました。好ましい(日本では必要な)改良を施した極上車であるにもかかわ
らず、レストア後しばらく経っていたがゆえに価格は比較的リーズナブルでし
た。このような購入の方法が結果的に最も安価でしょう。結局この
Mタイプは名古屋MGCCのメンバーのところ
に行きました。当初はオリジナルの6ボルト仕様のままでしたが、ナンバー取得後
に熱心なオーナーの手で12Vダイナモ(現在新品で入手可)に載せ替えられ、見えない
ところに電動ウオーターポンプを取り付け、その他配線など各部に手を加えら
れ、セル一発で街乗りできる状態になっています。
(例10:
’34年式PA)は2001年の英国で恒例行事となっているSilverstone
International MG Meetingにて、現オーナーが
実車を見て購入しました。試乗も行った上の納得しての購入です。前年の同イ
ベントでコンクールで優勝した極上車で、所有者の兄弟がMMM / Tシリーズのパーツ製作・販売を行っているエ
ンスージャスト(機関のOHも手掛ける)であっ
た点が、購入に大きく拍車を掛けました。日本で車検取得後もトラブルは全く
なく、実に快適に使用されています。あまりに完璧なため、オーナーは
2速ギヤに発する少しのノイズが気になり、
PB用のクロスレシオの
中古ギヤボックスを入手してOH・換装されました。
(例11:
’33年式J2)は2003年春にある愛好家の依頼で輸入したものです。英国で売り
に出た極上車を信頼できる人間に試乗をしてもらって輸入に至りました。日本
上陸後、MMMエンジンの弱点であるヘッドガスケット吹き
抜けのトラブルはありましたが、ソリッドカッパーの対策品に交換してからは
全く不具合は出ていません。車検を取得して日常使用されています。またその
年の秋には軽井沢に1000キロにも及ぶ長距離ツーリングを敢行しまし
たが全くノートラブル、極上車のため初期投資は大きかったのですが、結局は
安心して長く乗れるため、精神的にも金銭的にも正解だったと思います。
(例12:’32年式J4
Replica)は、ある愛好家の依頼で2003年12月に輸入しました。
上記例8とほぼ同じパターンですが、これは上陸後バッテリーを交換しただけ
で他は全く手を入れずに問題なく走り回っています。J2では決して味わうことのできないスーパーチ
ャージャーの豪快な加速がオーナーを魅了していますが、街乗りできるほどフ
レキシブルなため、ドアの無いレーシングカーですが車検取得を検討中です。
(例13:’35年式PB)は、名古屋
MGCC会員の依頼で2004年夏に英国より輸入
したものです。極上のレストアで、当初よりオプションの水ポンプを付けてあ
るなどが決め手になりました。すぐに日本のナンバーを取得、以前
Mタイプに乗られていたオーナーからは街乗り
には何ら不満はないとのコメントを頂戴しています。
6 MMMに
乗る
さて
MMMを英国で購入、必要な手直しを英国または日本で行ったと
して、果たして日本の路上で公に使用できるのでしょうか。結論は
YES、全然問題ありません。まずMMMのナンバー取得は困難ではありません。素人でも新規車検は可能です
し、その際はオリジナルを殆ど損なわずに検査にパスさせることができます。
2001年には神戸MGCCのメンバーが前述の
PA(例10)の新規車検に挑戦、排ガス対策も特に行わ
ず、腕木式方向指示器とツメ付きスピンナーのままで合格させました。改造点
と言えば、オリジナルの8インチのへッドランプは最近出回っているハ
ロゲン球を付けても光量不足のため、シールドビームをうまく組み込んだ程度
です。また2004年12月には
PBエアラインクーペ
(前述例2)の新規車検も行いました。
一旦ナンバーが付
いてしまえば、継続検査(ユーザー車検)は簡単です。なお、前述のように腕
木式方向指示器(セマフォー)でも車検には通りますが、安全運転のためには
通常の点滅式ウインカーをサイドランプに組込んだ方が良いでしょう(改造部
品は容易に入手可で、Tシリーズにもよく使用されています)。
ところで晴れてナ
ンバーがつき、いざ公道上で使用しようとする場合には、注意することがいく
つかあります。
まずギアボッ
クス。MMMは、Kタイプの一部や
Q・Rタイプに用いられた半自動式のプリセレクタ
ー型を除いて、全て4速、または
3速(一部のM・Dタイプ)のノン・シ
ンクロ・ギヤボックス(いわゆる「クラッシュ・ボックス」)が搭載されてい
ます。これにはギアのシンクロナイザー機構が一切ありませんので、ギアチェ
ンジの際には上げるにも下ろすにも必ずダブル・クラッチが必要となります。
慣れるまでは結構難しいのですが、いったんコツをつかめば意外に簡単で面白
いものです。そうなると発進時以外は一切クラッチを使わず走行することすら
可能です。幸い、MMMに限らず戦前の車のクラッシュ・ボックスに
使われているギアの品質は極めて高く、少しぐらいギアが鳴っても欠けたりす
ることはあまりありませんし、仮にギヤの歯が半分程度まで減っても、ノイズ
が大きくなるぐらいで特に走行に支障はありません。問題は、シフトが
Hパターンながら少々変わっていますので、時
々戸惑ってしまうぐらいでしょうか。
またクラッチ
も、摺動面積が狭い
上に現在入手できるライニングの材質のせいか、半クラッチを多用すると燃え
てしまうことがあるので気を付けましょう。半クラッチが癖になっている人
で、スバル・レックスのダイアフラム式クラッチをそっくり移植してしまった
人もいます。またM / D / J/は、現在流通しているクラッチ・レリ
ーズベアリング・カバーが材質的に磨耗に弱いので、クラッチを踏む回数はな
るべく少なくするよう癖を付けたほうが良いでしょう。
また冷却系統
も注意が必要です。
MMMのラジエターはハニカム(蜂の巣)タイプで現代の標準か
らすれば非効率な代物です。しかも通常はウオーターポンプが付いておらず、
水がサイフォン式に自然循環する原始的なものですから、どうしてもヘッド周
辺に熱がこもってオーバーヒートしやすくなります。そこで当時レースパーツ
としてオプションで存在し、現在は再生産されているウオーターポンプをエン
ジンのフロントハウジングに取りつけることは良く行われます(J1~J3はフロントハウジン
グをJ4用に交換する必要あり)。また電動式の汎用
ウオーターポンプを付ける方法もあります。これはオリジナリティを損ないま
すが、エンジンのパワーを消費しませんし、何と言っても安価にかつ簡単に取
り付けができます。
いずれにせよ水温
には十分気をつける必要があるのですが、車種によっては独立した水温計が取
付けられないものもありますから、その場合はラジエターキャップに直接取り
付けます。またラジエターは密閉式ではないので、クーラントが沸点に達する
前にオーバーフローパイプから外に流出するのは正常です。そのためクーラン
トは当然ながら早く減ります。なお、ラジエターキャップから吹きこぼれるの
はキャップのシーリングが悪いことが原因にすぎず(Oリングが入っていない車が多い)、オーバー
ヒートでクーラントが激しく沸騰してしまわない限りキャップから吹きこぼれ
ることは通常ありません。
ダイナモ
の発電量も注意すべ
きポイントです。MMMに標準の、ブラシが3つあるダイナモは低速
では発電量が十分ではありません。ダイナモ自体がエンジン回転数で回る構造
のため、高速走行中は問題無いのですが、アイドリング時や夜間は消費量の方
が上回りがちです。最大8A発生するよう調整するようマニュアルでは指
示されていますが、8A=96W ÷12V ですので、
50Wのヘッドライトを点けると左右で100Wとなり、最大発生電
流をそれだけで使い切ってしまいます。よって筆者は12~15A程度出すように調整
していますが、ダイナモの寿命を少し縮めます。
幸い
MMM全車には電流計が標準装備されていますから走行中に発電
量は確認できますが、部品に負担を掛けずこれを改善するのは、最近生産され
ている高効率の2ブラシタイプのダイナモ(かなり高価)に換
装する以外に手は無いようてす。これは12A~20A程度発電するようで
す。戦後車のダイナモはよくプーリーの交換による高回転化を図ったり、
ACオルタネーターに換装したりしまずが、
MMMのエンジンには通常のベルトの類いが一切付いていないの
で、ダイナモのプーリー交換はあり得ませんし、それゆえにオルタネーターへ
の変更もちょっと困難です(英国のMMM愛好家で自動車電装業者がオリジナルのダイ
ナモのケーシングを利用したオルタネーターの開発に成功したと聞いていま
す。またクランク先端からカップリングを経由して延長シャフトをつないでオ
ルタネーターを増設する方法を見たこともあります。またデフのバンジョーに
オルタネーターを取り付ける方法も有るには有りますが、停車時に充電しませ
ん)。第2章でも簡単に述べたように、MMMのエンジンはクランクとカムの駆動がシャフトドライプで、そのシャフ
トをダイナモのシャフトが兼ねている構造のため、ダイナモ駆動用にベルトは
必要ありませんし、ウオーターポンプ(付いていたとして)もギア駆動です
し、冷却ファンも一部のFタイプを除いて存在しませんので、プーリー
自体が付いていません。ベルト駆動式のスーパーチャージャーはありますが、
このベルトを利用してダイナモを増設することは非現実的です。よって発電量
を補うには予備のバッテリーを積んでおくのが一番で、筆者の’33年式J2もリアの非常に大き
なバッテリー搭載スペースにすっぽり2個の55Aのバッテリーを積み、キルスイッチを2個設
置して切り換え式としています。そして帰宅後は微弱電流(4A以下)で充電してやると常に好調なばかり
か、バッテリーの寿命も驚くほど長くなります。微弱電流ですとバッテリーか
ら発生するガスは殆ど無いので、各セルのキャップを開ける必要が無く、端子
の位置を選ぶと充電器接続の手間は全く掛かりません。なお、急速充電はバッ
テリーを酷く傷めますので行ってはいけません。
ブレーキ
は全車機械式です。
初期のMタイプはロッドブレーキでしたが、以降は全
てケーブル式となります。ドラム径は3通りあり、M・C・D・J・F1は8インチ、
F2・F3・L・P・Nは12インチ、
Kは13インチが標準です。機械式と聞くと先入観で
効かないものと思い込んで、ろくに調整もせず油圧式に改造してしまう人がい
ますが、これは大変愚かなことです。機械式ブレーキも、しっかり組まれて調
整が行き届いていれば、路面にブラックマークを付けて停車できるほど強力で
す。少々手間はかかりますが、ブレーキシューがドラムに当る面積を最大にす
るよう組み、ケーブルの張りを4輪とも適正に調整していれば、通常の使用に
不都合は殆どありません。ただ、エンジンをチューニングしてパワーが出てい
る場合は、大径の機械式に改造することは本国でも奨励されています。筆者の
J2レーサーもPタイプ用の
12インチ径のブレーキ
に換装して好結果を得ています。
戦前の車といって
も構造的に現在の車と何ら変わることもないため、MMMをドライブする上での注意点は上記の
5点ぐらいです。
Bやミジェットと大同小異です。日頃のメンテ
ナンスは構造が簡素ですので戦後の車より楽ですし、オイルも現在のマルチオ
イルは高性能ですので、固めの鉱物油を使っている限り問題はありません(添
加剤は辞めておいた方が無難です)。プラグに関してもJ以降は相性バッチリの良いものが
NGKの通常市販品にあるので安心です。またM / Fタイプなどは18mmの大きなものを使い
ますが、それも種類は少ないものの市販されています(なお18mmプラグホールに14mmプラグを取り付ける
アダプターが市販されていますので、Mにも一般的な14mmプラグを付けること
ができます)。
7 MMMの
チューニング
さて、ここまて読
んでこられた方は、多かれ少なかれMMMに興味を持たれたでしょうし、たくさん出版
されているMGの写真集に登場する
MMM各車も、以前より何となく身近で少し現実的
に見えてきたことでしょう。「人とは違うMGに乗りたい。それには
MMMが面白そうだし、維持もできそうだ。でも肝
心の性能は?普段の使用に問題はないのか?」-----第2章でも少し述べまし
たが、MMMは決して遅い車ではありません。通常の交通
の流れに乗るのは容易ですし、限られたパワーを目一杯引き出して乗りこなす
のは本当に面白く、現代の路上でもまったく問題なく使用できます。ただし上
り坂ではやや「かったるい」面があるのは否めません。レーシング各車や
6気筒モデルはそんなことはないのてすが、
3速ギヤボックスの
Mなどはノーマルでは高速道路の登坂を走行す
るときなどに少し不満が出てくるかもしれません。2速では回転が上がりすぎ、3速では登らないのです。そこでJの4速ギヤボックスに積
みかえることが良く行われます。
次のステップはエ
ンジンのファインチューン(正確な調整)です。チューニングの基本は本来の
性能を最大限発揮させることにありますので、まずはバルブタイミングの入念
な調整、キャブレターの同調そして点火系のリフレッシュを行います。もとも
と大パワーエンジンではありませんので、これだけで随分と体感馬力はアップ
するものです。
それでも不満な場
合はチューニングパーツ組込みによるパワーアップを図ることになります。チ
ューニングパーツは多種類のものが豊富に生産されていますので、全く困るこ
とはありません。しいて言えば情報が多すぎるのが悩みの種です。一般的には
クランクを特殊鋼のフルバランスのものに、ビッグエンドのメタルをシェルベ
アリングに、ピストンのガジェオンピンはフル・フローティングタイプに、コ
ンロッドはキャレロ型にするなど、材質や方式を改善するのが基本で、これに
面研やカムのプロファイル変更、バルブの大径化、高効率のエキゾースト、な
どを組合わせていきます。コスワース製のピストンにホンダのリングが組み合
わされるようになってパフォーマンスは随分上がっています。もちろんスーパ
ーチャージャーで一気にパワーを2倍にする方法もあります。
そしてこのような
チューニングを施すと同じにファイナルを下げることも良く行われます。新車
当時はその使用目的(ヒルクライム用か街乗り用か、など)によって何通りか
のファイナルレシオを選べましたが、現在も標準に加えて色々なデフェレンシ
ャル・ギヤのセットが入手できます。ただ、ファイナルを下げて最高速が上が
るかと言えば、必ずしもそうではありません。パワーとギヤ比の兼ね合いは複
雑です。オリジナルの5割増とかそれ以上のパワーが出ているときは
ともかく、基本的にはオリジナルの組み合わせが最善であると考えて間違いな
いでしょう。
英国にはエンジン
やギアボックス、デフなどの一般的なオーバーホールに加え、上記のようなエ
ンジン・チューニング、足回りやボディの加工を請け負ってくれる
MMM専門のスペシャル・ショップが結構たくさん
あります。しかし日本にはこのようなショップは数が少ない上、MMMエンジンに間するノウハウや特殊なチューニ
ング・パーツの情報・入手ルートなどの重要性を考慮すると、自分で行う場合
を除いてはエンジンを下ろして英国に送ってしまうのが最も手っ取り早くて確
実でしょう。あるいは購入後、日本へ送る前にエンジンチューンを含めた機関
全般の徹底的なオーバーホールを依頼するとか。何といっても、英国には強化
ブロックにアルミヘッドを載せ、時速100マイル(160キロ)を軽く出して
しまうJやPがゴロゴロしている
のですから。ただし、前述のように筆者のJ2のエンジン、あるいはK3のエンジンのよう
に、ある程度のリスクはあります。
なお、チューニン
グに関する情報や、英国のスペシャルショップに関する情報は、本国
MGカークラプのMMMレジスターが毎年発
行しているMMM年鑑が役に立ちます。筆者もこの年鑑を参照
したり、海外のエキスパートと頻繁にやり取りしてノウハウを蓄積して自分で
チューニングを行うのは大好きなのですが、本国で本気でレースをしている人
たちのお金の掛け方は尋常ではなく、全くついていけないことも多く、妥協せ
ざるを得ない部分があります(J2のバルブリフトを1mm稼ぐため、大径カム
を組み込むことができる特殊ヘッドを何十万円も出して購入する気にはなれま
せん)。
またチューニング
ではありませんが、現在の路上でも問題なく使用するために、カートリッジタ
イプのオイルフィルターを取り付けられるようにするキットやアダプター(筆
者のJ2に使用しています。トヨタの現行クラウン用
のオイルフィルターが使用できます)や、先ほども少し述べましたが高効率の
ダイナモ(フォルクスワーゲン・ビートル用や戦後のLucasダイナモを改造したものなど)、アルファロ
メオやワーゲン用のBosch製ディストリビューターなど、便利なパーツが入手可能で
す。いずれも外観・雰囲気をほとんど壊すことはありません。また邪道との見
方も一部にはありますが、よりハードな走りを楽しんだりレースに出たりする
愛好家は、ブレーキをモーリス8などの油圧式に改造することが多いようで
す。
またこちらも邪道
かもしれませんが、一部の愛好家はギヤを全部新製して5速ギヤボックスに改造したり、ギヤボックス
とプロペラシャフトの間にサブ・ミッションを置いて8速仕様としたりしてレースに出ています。街
乗り用には、最近になってMGB用のレイコック製のオーバードライブを組み込むキットが
登場しています。これによって7速ミッションにでき
るわけです。
8 終わりに
筆
者がMMMと関わり始めてから17年。K氏が所有して
いたKN改(K3レプリカ)のステア
リングを握ったのが始まりです。その後すぐ’33年式のJ2を手に入れて
MMMの面白さに開眼し、英国で色々なMMMを見たり触ったり乗
せてもらったりするうち、いつの間にか友人も情報も知識も増えました。そし
て1994年に’35年PBエアライン・クーぺ
を購入(2001年に英国でのレストアが完成して輸入)、
そして1997年にバラバラの’32年J2を購入、スクラッチ
でレーサーを作成しました。現在はL1 マグナのレストアの真っ最中、これが終われ
ばもう一台J2レーサーを製作する
予定です。そうこうするうちにMMM特有のメカにも相当詳しくなり、いつの間に
か大量に手元に集まった新旧部品を日本中のお仲間に供給するようになり、そ
して整備待ちのMMMに追われるようになりました。そんな影響を
受けてか、友人にもMMMにのめり込む者が3人、4人と出現、毎年数台
のMMMを英国で見つけては輸入するようになりまし
た。
奥
が非常に深いMMMの世界、本当に知れば知るほど魅了されま
す。MMMの総生産台数は10,000台ほど、そのうち
4割は所在とオーナー
がハッキリ分かっていますので、色々なネットワークが構築されています。そ
のような情報網、特にインターネットを通じた世界中のMMMオーナーとの交信が楽しい毎日です。オース
トラリアのRタイプのオーナーが
Pタイプ用に5速ギヤボックスを作
ったとか、トヨタMR2用のスーパーチャージャーを取り付ける際の
注意点だとか、ベルギーの愛好家と一緒にJ2用のスペシャルカムを少量生産しようか、な
ど話題はつきません。このような友人を通じて新車当時のオーナーズ・マニュ
アルや工具などを入手したり、愛車のヒストリーを調べ上げたり、また週末に
は自分の愛車で色々と試行錯誤をしたり、レストア中のL1 マグナの部品をOHしたり…
MMMはクルマ趣味を非常に充実したものにしてくれています。
また
MMMに深く関わりのあった人物のこと、特定の車のヒストリー
(1998年はジャーナリストのM氏が調査する那須の自動車博物館に展示され
ている速度記録挑戦車「EX-120」の謎解きに少し関わり、2003年には日本にあるK3マグネットのプロトタイプに関する論文を
MMMイヤーブックに寄稿しました)、MMMのレーシング記録
(現在は1930年代前半のMMMのレースでの活躍を
まとめています。神戸MGカークラブ会報に連載中)、あるいはそれら
全般にまつわるエピソードを読むことも大変面白いことです。
日本ではあまり知
られていないMMMについて簡単に説明し、少しでも多くの方に
興昧を持ってもらおうという魂胆で書き進んでいるうちにずいぶん長くなって
しまいました。今回の改訂も、1996年に最初に書いた本稿に少々肉付けして修正
した程度ですが、経験談を少々充実させたつもりです。
ご質問・ご指摘・ご
相談・ご意見・部品や車体の手配、チューニング相談など、MMMに関することなら何でも結構ですからご連絡
をいただければ幸甚です。そして、これを読まれた方の中から「お仲間」が現
れることを期待しつつペンを置きます。
2005年5月
神戸MGカークラブ
西 尾 隆 広
〒658-0073
神戸市東灘区西岡本
7-8-21
TEL/FAX
: 078-441-2409
e-mail
: hiro@octagongarage.com
*
本原稿は神戸MGカ
ークラブ会報「クリームクラッカース」第37号(1996年5月)に掲載されたも
のを一部手直しして転用いたしました。
*
2005年5月版
(Vol.8) 無断転載を禁ず
Ⓒ神戸MGカーク
ラブ
本原稿は神戸MGカークラブ・インターネット・ホームページ
http://lalabsd.shiga-med.ac.jp/kmgcc/index-j.htmlに掲載中のものを一
部改訂したものです。